「俺の返事を待たずに開けっぴろげんじゃねぇよ!!」
「あだっ!!」
土方の電光石火の拳骨炸裂。
三津は頭を押さえてのたうち回った。
「大事な話だ座れ。」瘦小腿肌
「はい…。」
これ以上怒らす訳にもいかず，脳天の痛みに耐えながら姿勢を正した。
持ってたはたきと雑巾も，ちんまり三津の隣りにいる。
「単刀直入に言う。」
「はい。」
鋭い眼差しにゴクリと唾を飲む。
土方は腕組みをしたまま，たんまりと間を保たせてから口を開いた。
「今日限りで終わりにしてやるよ。」
「……え？」
土方の言葉をすんなり飲み込めなかった。終わりと言うのは，屯所での生活の事だろうか。
何か粗相をしたか？
完璧とは言わないが，精一杯仕事はしてるつもり。
『もしかして…，沖田さんと一緒にお茶請けのお菓子つまみ食いしたんバレた？
それと，斎藤さんとこっそりお酒呑んだの知ってはる？
あっ，実は朝餉のお味噌汁が一人だけ少なめやったのに気付いたかな…。』
色々心当たりが出て来た。ここはひとまず，
「すみませんでした……。」
畳に額を押し付けて平謝り。
「あ？てめぇ何かやらかしたな？」
「あれ？違う？じゃあ忘れて下さい。
ではお世話になりました。」
平謝りの土下座から三つ指ついた綺麗な礼を見せた。
理由はどうであれ逃げなければと瞬時に思った。
「待て，出てく前に洗いざらい吐いてけ。」
「いえ，忘れて下さい。私の存在ごと。じゃっ！」
「逃がすか。」
そう易々と逃がすわけがない。
三津が立ち上がるよりも早く腕を掴んで取り押さえた。
「今すぐ吐かせたいとこだがそんな暇はねぇ。
今後じっくり聞かせてもらう。
だからさっさと布団持って出てけ。」
「え？布団？」
三津は疑問を抱いて土方を見上げた。
「今日限りで小姓の仕事は終わりにしてやる。
だからお前の狭い薄汚い部屋に帰れ。
これからは今まで通り女中の仕事やってろ。」
「薄汚くないし狭いのは私のせいじゃないですからね。」
『何だ…そう言う事か…。それにしても毎回一言多いんやから……。』
三津は口を尖らせて反抗的な態度をとった。
『言われなくても出て行くもん。』
三津は押し入れから布団を引きずり出して持ち上げた。
「これも持ってけ。」
その上に荷物が一式入った行李をドンと乗せられた。
「ちょっと！安定悪い！後で取りに来ますから!!」
「やれば出来る。」
ピシャリと言い切られ，無情にも部屋を追い出された。
「……鬼。」
こうなったら腕に限界が来る前に部屋に運んでしまおう。
ぐらぐら揺れる行李に注意を払いながら，そろりそろりと廊下を歩いた。
そして廊下を曲がった瞬間，
「随分と器用だな。それとも一度に全てを済ませたい横着か？」
「あ，斎藤さん！初めてぶつかりませんでしたね!!」
「まぁ…。そうだな…。」
布団が角からちょっと見えてた事は黙っておいた。「どこまで運ぶ？」
斎藤は行李を手にとって布団と見比べて重さを考えた。
「こっちを持とう。」
一旦行李を足元に置いて三津から布団を取り上げた。
その斎藤の優しさが嬉しくて堪らなく，三津は目を細めた。
「ありがとうございます！私の部屋までお願いします!!」
「お前の？副長と喧嘩か？」
三津はにんまり笑って左右に首を振る。
この解放感は素直に顔に表れた。
「いえ，小姓の仕事は今日で終わりなんです。」
『副長がコイツを手離すとは……。どう言う心境の変化だ？』
「本当に喧嘩じゃないのか？」
「ちゃいますよ。多分まだ寝言が煩いんちゃいますかね？
女中に戻ってもお茶や何やですぐ呼びつけるに決まってますけどね。」
結局いいように使われるのは目に見えてると苦笑いをした。
『そうだな，喧嘩別れならこんなに普通じゃいられないな。
…となると離れても問題ないぐらい仲を深めたと……。』
「だがあれだ…偶には副長の部屋で過ごすといい，喜ぶぞ。」