『宮城さんすまん。俺あの時何も出来んかった。』
“気にしとらん。その分お前はこれから何でも出来るやろ”
『俺や高杉を恨んどらんそ?怒っちょらん?』
“そんな感情一切ない。腹立つと言えばお前がまだ俺の事で気に病んどるのが腹立つ。高杉にも言っとけ。毎月しんみり謝りに来るより面白い話と酒持ってこいやって”
『悔しくないん?』瘦小腿肌
“そりゃ無念じゃ。やけど俺より若いのが逝かんで良かった。才ある若もんが死ぬ方が無念ぞ。お前らには長州を引っ張る力があるんやけぇしっかりやれや。
ほれ,もう帰れ。女を待たすもんやないぞ”
その時ようやく背中に感じる温もりに意識がいった。
「三津さんすまん。振り返ってもええか?」
「あぁ!すみません!背もたれなんかにして!」
三津があわあわしながら飛び退いたから赤禰は笑って振り返った。
三津は振り返った赤禰が涙の跡も拭わずにそのままの姿を見せてくれた事に笑みを浮かべた。
「武人さんも強い人ですね。宮城さんとお話出来ましたか?」
三津は懐から取り出した手拭いで涙の筋をそっと撫でた。
「出来た。高杉に伝言も預かった。」
前よりも清々しい赤禰の笑顔を前に三津も微笑んだ。
「帰って高杉さんに伝えてあげましょうか。」
「そうやな。宮城さんまた来るわ。」
最後に墓石に向かってにっと笑った。三津は頭を下げてまたと手を振った。
その帰り道,何やら見覚えのある嫌な感じの二人組を見つけた。これは見つからない方がいいなと二人で顔を見合わせた所であちらも三津達に気が付いた。
「おうお前らこの前はよくも馬鹿にしてくれたな。
」
『大したことない奴らがよく使う台詞。』
三津はやれやれと呆れ顔で二人の言葉を右から左に聞き流した。
「おい女!何無視してやがる!」
「え?私ですか?」
ぼーっとしていた三津は何か言われたの?と赤禰を見上げた。赤禰は肝が座っちょるなと苦笑した。
「こいつ舐めやがって……二度と出歩けねぇようにしちゃる!」
「うわぁ安い捨て台詞!」
言われた私が恥ずかしいと三津は嘆いた。今回は心の声が表に出てしまった。その言葉に赤禰はぷっと吹き出して,男達は顔を真っ赤にして怒りに震えた。
「お前……斬るっ!」
怒り狂う男らが刀に手をかけるも三津の視線はその背後にいった。
「君達かぁ。この前も三津達に絡んだろくでもない男達と言うのは。武士の癖に背中がら空きだよ。」
男達の間,顔と顔の隙間からスッと白刃が姿を見せた。「だ……誰だ!」
男達は背後に居るのが誰だか分からずガタガタ歯を鳴らした。
「あぁすまない先に名乗るべきだった。桂小五郎だ。
三津の無礼な発言は私が変わりに謝るよ。悪かったね。素直な子なんだ。ただ君達の狼藉も私が処すけど何か文句ある?」
三津は私無礼なの?と赤禰の着物をぐいぐい引っ張った。赤禰はそんなこと無いよと頭を撫でた。
「かっ!桂小五郎!?」
二人は刀から飛び退いて同時に振り返った。桂はどうもと悠長に刀を鞘に収めた。
「君達の事は聞いてるよ。同志でありながら身分の差をひけらかして愚弄し死者までも冒瀆したと。
身内で揉めるのも大概にしてくれないか?
私の仕事が増えるんだよ。増えたらどうなるか分かる?三津との時間が減るんだよ。
それが減るとどうなるか分かる?私の機嫌が悪くなる。私の機嫌が悪くなると八つ当たりをしたくなる。八つ当たりの相手を探さねばならん。
……あぁ居た。目の前に。」
桂はにんまり口角を上げた。色男のどす黒い笑みはちんけな男達には相当恐ろしくみえたらしい。
すみませんでしたと叫びながらあっという間に逃げて行った。